翡翠の河

2003-05-19
作者:コジロウ さん

頑固に春風を拒む 北陸の陰鬱な雲が
黒姫の生肌を降り 翡翠の谷に彷徨う
誰もが敬遠した日 僕一人谷に彷徨う
碧色の電荷を湛え 春雨を集めた河も
いざ降りて見れば 恐い程澄んでいた
ただ川浪の飛沫と 冷たさが宝を隠す
  
浪を分け歩を進め 足を止め浪を跨ぐ
手を沈め石を採り 石を捨て手を拭う
流れに押さるまま 場所を変えてみる
翡翠などただの石 買えば早いだろう
そう友が言っても この手で探すんだ
憧れのあのひとへ 贈るものだからさ
  
何十個目だろうか 濁ったいびつな石
一応翡翠だろうが あのひとじゃない
汗を拭き上流を観 煙る源流へと擲つ
あのひとはもっと 輝いているはずだ
たとえ濁流に隠れ 偽者に混じっても
必ず見つけ出せる 見つけたんだから
  
噴煙の様な雲達が 野次馬の様に増え
雨水は河面を走り 長靴のふちを窺う
遠慮がちな太陽は とうに僕を見捨て
もう見えぬ河底に 潜む石が指を噛む
人違いに人違いに また人違いを重ね
どの石も黒く見え もうこれが限界か
  
体を岸へ向けた時 ふやけた足が滑り
大袈裟な音を立て 半身が河面を叩く
咄嗟に突いた掌が 何かに突っ込んだ
案外痛くないのは 麻痺しているのか
氷の様だった水も 今は風より温かく
いっそ愚かな僕は この儘で居ようか
  
それが麻痺でなく 本当に痛くないと
気づいた頃やっと 立ち上がれたのだ
磨き抜かれた玉は 掌の下にあった物
無残に潰れた筈の 僕の手を支えた者
こんなに暗くても 確かに輝いている
やっと会えた人を 胸に抱き瞑目した

 
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