White Christmas



 雪が降る。真っ白に世界を染め上げる。樹々に時ならぬ純白の花を咲かせ、大地を真綿で覆い尽くし。人々の心さえも穢れ無き白で塗り込める。
 大気は冷たく冴え渡り、夜空を星々が埋め尽くす。その煌きは何処までも澄んで。見る者全てに、分け隔てなくその美しさを分け与える。

 かつて遠い昔、何処か異国の地で、救い主が世に生を受けたという。故郷を追われ行く宛の無い若い夫婦は、厩の片隅に一夜の宿を得た。その晩、身重の妻は、急拵えの褥で男の子を生み落とした。
 其の幼子が実は神の子だと、夜空に一際輝く星が世に告げていた。父なる神が今、その最愛の子を使わされたのだと。声無き声が響き渡る。
 目聡い賢者達の幾人かが、星の報せに気付いた。彼等は東方から荒家に馳せ参じ、まだ言葉も喋らぬ赤子の前に跪ずく。携えた貴重な供物を捧げ、狼狽える若夫婦にその子の偉大さを説いたという。
 人々に父なる神の言葉を伝える為に。拭い切れぬその罪を一身に背負い、魂の救いを斎す為に。救い主となる者が地に降り立った、この聖なる夜。

 雪が降る。全てを覆い隠す、それはまるで恩寵の様で。神とその子を称える歌声が街に響き渡る。家々から漏れる暖かな灯りが満天の星と競う。
 今宵だけは剣を置き、諍いを忘れ、互いに罪を許し合う。かつて神の子が我々に為し給うた様に。全てを水に流して魂の平安を祈る。そう定められた夜。
 雪が降る。目に映るもの全てを白一色に染める。敬虔な祈りの如く、穏やかな想いの如く。真っ白な雪が降り積もる。純白の天使の羽根が、音も無く大地に舞い落ちる。

 

―― Das Ende. ――



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