「ほら、コレ。水槽みたいに場所を取らないし、維持費もかからないし。結構人気あるらしいよ。」
「ふーん。」
小さな小さな硝子瓶。キャンディボックス程の大きさの中に、小さな熱帯魚が泳いでいる。棚にズラリと並ぶソレを眺めながら、友人が楽しげに話している。私の気のない相槌に気を悪くした様子もない。彼女の部屋にも一つあるのだと教えてくれた。
透明な水を湛えた小さな硝子瓶。底には極小の色硝子のビーズが敷かれて。水中でユラユラと漂う、小さいけれど鮮やかな色の魚。
見ていると、何故か息苦しくなってくる。まるで自分が狭い硝子瓶の中に閉じ込められた様な気がする。閉塞感に襲われて、私は思わず目を逸らす。
「どうしたの?」
友人が心配顔で振り返る。
「何でもない。ちょっと息苦しくなっただけ。」
私の返答に彼女の表情が更に曇る。
「大丈夫。こういうのが苦手なだけだから。」
その返事に納得したのかどうか、彼女はそれ以上何も言わなかった。店員と飼い方の話を始める。それを聞くともなしに聞き流しながら、私は棚に背を向けた。これ以上はとても見ていられなかったから。
硝子瓶の中だけで生きる事を強いられた、とても小さな魚達。彼等には、限られたその空間を共有する仲間さえいない。一人ぼっちで漂っている。とても綺麗で、だけどとても可哀想…。
彼等が何処で生まれたのか、私は知らない。きっと彼等自身も、自分達の本来あるべき姿など忘れ果てているのだろう。
視線を戻すと『一人暮らしの女性に人気』とポップが謳っていた。誰も居ない部屋に戻る彼女達を待つ、一人ぼっちの熱帯魚。それはひどく似合いの組合せの様な、それでいて何処か遣り切れない気がして。
「やっぱりこういうのは苦手だ。」
低く呟いてみる。それで彼等の何が変わる訳でもない。私がどう思おうと、魚達は硝子瓶の中。洒落た『インテリア』として売られ続けていくのだろう。何時か人間達がソレに飽きるまで。