今日も、空が、青い…



 もう終わりにしよう、何もかも。何だか疲れちゃった。
 傷付いているのに、何でもないフリをしたり。泣きたいのに、卑屈な作り笑いを浮かべたり。そんな自分がすごく嫌。でも抵抗なんかすれば、きっと今以上に辛くなる。それはもっと嫌。
 だからもう、終わりにしよう。

 涙を堪えて、空を見上げる。忌々しい位に晴れ渡った、青い空。
 もう随分と長い間、こんな風にしか空を見てない気がする。泣くのを我慢する為に。辛いのを忘れる為に。青い空も、白い雲も、眩しい太陽も。私はまるで見てなかった。
 ずっと雨模様の心には、陽の光が射す事は無くて。何時の間にか、空が青い事なんか、何とも感じなくなっていた。

 何故、こんな風になっちゃったんだろう。幾ら考えても分からない。私はずっと良い子だったのに。ママや先生の期待を裏切らない様に、ずっと頑張ってきたのに。
 友達にだって、意地悪した事なんか無い。誰にでも優しく、誰にでも親切。そう努力してきたのに。なのに何故、こんな目に遭うんだろう。
 私が何をしたって言うの。何がいけなかったの。私はこんなに良い子なのに。

 でも、もう良いんだ。何もかも、嫌になったから。もう終わりにしよう。嫌な事も、辛い事も、全部。我慢するのに、疲れちゃった。
 何も見えない、何も聞こえない、誰の手も届かない場所で。何を思い煩う事なく、ゆっくり休みたい…。

 ココから一歩踏み出せば、楽になれる。目を閉じて夢想する。
 一瞬、体が宙に浮いて。それから垂直に落下する。轟々と、耳元で風が鳴る。風圧で目も開けられない。地面に届くまでに、どの位の時間が掛かるだろう。死ぬ直前に、自分の人生が走馬灯の様に脳裏に浮かぶという。アレは本当の事なんだろうか。私はまだ、生まれてから十数年。人生という程の長い時間は生きていないけど。

 私が死んだら、誰か泣いてくれるかな。勿論、家族はきっと泣くだろうけど。もしかしたら、他にも友達の一人や二人、涙を流してくれるかも知れない。
 でも彼等にしたって、悲しむのはほんの暫くの間だけ。それで何が変わる訳でもない。私が居ても居なくても、それでも地球は回ってて。何が変わる事もなく、時は流れ続けるだろう。皆もきっと、私の事なんか直ぐに忘れてしまうんだろう。
 どうせ私なんか、それっぽっちの存在でしかない。

 だけどココから落ちたら痛いだろうな。一瞬で終わるんだろうか。苦しみながら死ぬのは嫌だな。
 それにイジメられたから、というのが理由だと、そう思われるのも癪だ。何だか負けたみたいで悔しい気がする。実際その通りなんだけど、でもやっぱり嫌だ。
 何をされても、何を言われても。まるで気にしない風に振舞う私は、やっぱり可愛げのない子なんだろう。
 そんな事を考える。何時の間にか、一歩を踏み出す気は失くしていた。

 結局、最後はいつもこうなんだ。逃げ出したいと思う気持ちはあっても、実際に何も出来やしない。言い訳に言い訳を重ねて、結論は出せなくて。自分で自分を終わりにする勇気すら持ってない。
 このビルの屋上にやって来て、空を見上げて、街並みを見下ろして。一日中、何もせずにボンヤリと佇んで。そしてまた日常に戻っていく。その繰り返し。

 目を開けて、再び眼下の光景を眺める。視界一杯に広がる街並みが、まるで作り物の様に見える。私には全く関係の無い、ドコか別の世界の様な、もっと別の次元の様な、そんな感じ。本当に私とは無関係だったら。どんなに良かっただろう。
 そう思ったら、泣きたくなった。慌てて目を閉じて、涙を堪える。
 頭上には、雲一つ無い空。私のちっぽけな悩みなど、我関せずといった風に、どこまでも晴れ渡った空。太陽が眩しい。

 嗚呼。今日も、空が、青い…。

 

―― Das Ende. ――



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