その日僕が目覚めたのは、既に午近い時間だった。
タマの休みだ。寝坊したって別に構わないだろう?
我ながら言い訳じみた独り言。
そして再び目を閉じる。
仕事に追われて、連日夜中まで、休みすら返上して。疲れてるんだよ。
もう少しだけで良いから。寝かせといてくれ…。
午後遅く、今度は空腹に目が覚めた。
そう言えば昨夜から何も食って無い。
仕方ない。起きるとするか。
冷蔵庫を開けるまでもなく、空っぽなのは分かっている。最近は忙しくて、自炊する暇なんか無かったしなぁ。
諦めて外に食いに行く事にした。
ついでに買物もして。久々に料理でもしてみるか?
こう見えても僕は料理が得意なんだ。時間に余裕さえあれば、結構凝ったメニューだって作るんだぜ。
でも今は、取り敢えず何か腹に入れるのが先決だな。
食えりゃ何でも良いさ、なんて思いつつ。足は自然と馴染みの店へ向かう。
少し遠いけど、旨い料理を食わせる店。味もさる事ながら、店主の落ち着いた人柄も気に入ってるんだ。意味も無く人気スポットなこの街にしては、静かで落ち着いた雰囲気の、穴場的な店だ。
店に入って、席に着いて。メニューの中から適当な料理とビールを頼む。
タマの休日くらい良いよな。ウェイターがウィンクを寄越した。まだ昼だけど大目に見てやるよ。そう言って笑う。
僕も笑って答える。滅多に休みなんか取れないんだぜ。ビールくらい飲ませろよな。
食事を終えて、実は話し好きの店長と、暫し歓談。お互いの近況、他の常連達の事…
一頻り話し終えて、僕は漸く店を出る。
また来るよ。僕の言葉に店長が笑う。
次は一ヶ月後くらいか?
多分そうかもね。僕は笑って手を振った。店長は店の外まで出て見送ってくれた。
さて、買物 ―― の前に本屋へ入ったのがマズかった。店内を端から端まで歩き回り、出る時には何故か重たい包みを手にしていた。
いつもこうなるんだよな。新刊を目にするとツイ手に入れたくなってしまうんだ。
夕食の買物を終えた頃には、もう夕方になっていた。
新鮮な魚介をGET。確か、悪友の土産の旨い地酒があった筈だ。久々に冷酒と和食ってのも悪くないな。
やや浮かれつつ帰宅する。
留守番電話に、その悪友からのメッセージ。
『よぉ!今晩、久々に何か食わせてくれ。』
…それだけかよ。全く呆れる程タイミングの良い奴だぜ。
まぁ、タマには良いか。酒の礼もまだだったし。
取り敢えず奴は放っておいて、料理に取り掛かる。
要領の良いアイツの事だ。どうせ出来上がった頃に、勝手にやって来るに決まってるさ。
「ヤレヤレ。何だって男二人、差向いで飲まにゃならんのだ?どーせなら綺麗なオネーサンとだなぁ…。」
「お前なぁ…そりゃコッチの台詞だっつーの。大体、人ん家に上がり込んでタダ飯食ってる奴が言う台詞じゃねぇだろう。」
「まぁ、そう怒るなって。ホラ、食えよ。」
「…だからお前が言うなってば。」
…なんて莫迦な会話を交わしつつ。互いに煽られる様に、急ピッチで酒が進む。結局、二人で一升空けちまった。
酔って寝ているヤツを無視して、僕は後片付け。
何か納得いかねぇよなぁ。彼女でもあるまいし、何でコイツに飯作ってやらなきゃならんのだよ?
「コラ!何時まで寝てるんだ。いい加減、起きないか。」
片付けも終えた夜半過ぎ。まだ気持ち良さげに寝ている奴を叩き起こす。
「…泊めてくれ。」
「嫌だね。お前はともかく、俺は明日は仕事だ。帰れ。」
冷たい奴だとか何とか、まだブツブツ言ってやがったが。構うもんか。奴の家は徒歩圏内。這ってでも帰れる距離なんだからさ。
酔っ払いを追い返し、僕の短い休日は終わりに近付く。
振り返ってみても、大した事はしてなくて。何となく一日過ごしちまったけど。
ま、こんなモンさ。
明日からまた、仕事に追われる多忙な日々が待っている。
タマには、こんな一日もアリだよな?
…そんな事を思いつつ、僕は眠りに落ちていく。
特別な事は何も無くて。ただ穏やかに時間が流れるだけ。
そんな風に、ごく在り来たりの休日が終わる。
ただ、それだけの話。